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赤石岳


2006年10月4日 午後、長野県大鹿村でツキノワグマに襲撃されて74歳の男性が死亡した。
このときのツキノワグマは、どうやら相当に大きな個体だったようだ。
この事件報道を聞いて、大鹿村はボクが生まれ育った隣村だったこともあり大きなショックをうけた。身近なところでこんなにも悲惨な事件があり気がかりだったので、ボクは大鹿村の遺族を訪ね仏前に灯明をあげさせてもらった。
そして、事故当時の模様をお聞きしてきた。

大鹿村入沢井に住むSIさんは、神主だった。
長野県の神主協会の理事をなされていたそうで、相当な多忙をきわめていた。
この日、ちょうど県外に住む妹さんが実家に帰省されていたので、SIさんは手土産に「マツタケ」でも持たせようと考えたらしい。
そこで、午後になって「白沢山」へ一人で出かけたのだった。

SIさんの奥さんは旅行で、この日は関東方面へバスで出かけていた。
しかし、夕方には帰宅する予定だったので、SIさんには迎えを頼んであった。
到着時間を知らせるために、奥さんはバスのなかから携帯電話でSIさんに何度も連絡をするが出なかった。
そこで、「おかしい」と感じて隣の松川町に住む息子さんに電話をして、高速のインターチェンジからバスのあとを大鹿村まで車でついてきてもらって自宅へ帰ったのだった。

だが、SIさんとは連絡もとれないまま暗くなっていまった。
近所の人たちも心配して村中を探しまわった挙句の夜8時ころ、自宅から5kmも離れた白沢山の入り口にSIさんの軽トラックがみつかった。
これで、遭難をまちがいないものとして、翌早朝に家族が警察に捜索願を提出したのである。
村中に非常召集がかかり、県警のヘリコプターも出動して、地上と空からの大捜索が開始されたのだった。
しかし白沢山は険しい山なので、SIさんはなかなか発見されなかった。
捜索も打ち切りになろうとしている午後3時ごろになって、ようやく変わり果てたSIさんを村役場の職員が発見したのだった。

SIさんは、白沢山にあっても見通しのいい小さな尾根で亡くなっていた。
マツタケを2本とり、それをナップザックへ入れようと腰をおろして紐を緩めているところへツキノワグマが突然襲いかかったらしい。
SIさんはとっさに左手で顔をかばおうとしたが、腕時計は千切れて吹っ飛び、左手の肘付近にクマの爪による大きな裂傷を負った。
そのあとツキノワグマは、SIさんの首や顔をひっかいて突き飛ばしたのだった。
顔には大きな傷跡が残り、首の頚動脈が引きちぎられ、突き飛ばされたときの反動で後頭部を背後の岩にぶつけて頭の骨が折れてしまった。
ほぼ、即時状態だったのである。

写真:南アルプス赤石岳を源とする小渋川がこのダムまで注ぐ、白沢山はこの小渋川のほとりにある。
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宮崎学プロフィル

宮崎 学

Author:宮崎 学
1949年、長野県生まれ。自然と人間をテーマに、社会的視点にたった「自然界の報道写真家」として活動中。
978年「ふくろう」で第1回絵本にっぽん大賞、1982年「鷲と鷹」で日本写真協会新人賞、1990年「フクロウ」で第9回土門拳賞、1995年「死」で日本写真協会年度賞、「アニマル黙示録」で講談社出版文化賞受賞。他写真集・著書多数。
最新刊「かわりゆく環境・日本生き物レポート」や「ツキノワグマ」「森の写真動物記」のシリーズが発刊中。

ホームページでは、中央アルプス山麓の仕事場をライブカメラにて24時間中継し、「家に居ながらにして自然が感じられる」と好評。

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